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【何が真実か?】孤独な天才ハッカーの青春群像劇『ピエロがお前を嘲笑う』

作品情報

『ピエロがお前を嘲笑う』(原題:Who Am I – Kein System ist sicher)

公開 2014年
上映時間 106分
監督 バラン・ボー・オダー
脚本 バラン・ボー・オダー、ヤンチェ・フリーゼ
出演 トム・シリング、エリアス・ムバレク、ヴォータン・ヴィルケ・メーリング、アントニオ・モノー・Jr.、ハンナー・ヘルツシュプルンク、トリーヌ・ディルホム 他
評価 ドイツ映画界の最高賞である、第65回ドイツ映画賞で作品賞、脚本賞、撮影賞にノミネートされ、編集賞、美術賞、音響賞を受賞。

あらすじ

数々のハッキング事件を起こし、殺人容疑で国際指名手配までされた天才ハッカーのベンヤミンが突然、警察に出頭してくる。

彼は、指名した捜査官ハンネ・リンドベルクに自身の無実と命が狙われていることを告げる中で、自身の半生と「事件」の顛末を語り始める。

はたして、彼の証言は真実なのか?
1人の青年と捜査官の頭脳戦が始まる—

感想

原題からすると、邦題がかなり攻めていて良い味出してますw

まだそれほど映画を観ていない頃に観て、特に自分好みで面白かった記憶です。
また、本作でバラン・ボー・オダーを知りました。

絶対に前情報なしで観た方が良いです!
誰かに薦める時は、単なるハッカー映画くらいで留めた方が良いと思います。

オールバックのトリーヌ・ディルホムが、『アベンジャーズ/エンドゲーム』の時のブリー・ラーソンに見えました。

雑記

「信頼できない語り手」

本作の核は、主人公ベンヤミンの自白を軸に進んでいき、彼目線からの世界のみを見せつける構造になっているということ。

いわゆる典型的な「信頼できない語り手」
この手法で有名な作品に『ユージュアル・サスペクツ』や黒澤明監督の『羅生門』などがあります。

ハッカー映画でも画が地味じゃない

コンピューター上で行うハッキングは本来、画的にはとても地味になりがち。

しかし、本作はこの弱点を逆手に取り、ハッカー同士のネット上でのやり取りを地下鉄の車内に見立てて視覚化するという発想で乗り切っている。

この仮想空間を現実の風景に翻訳する工夫は、単なる演出上のアイデアにとどまらず、「匿名の自分」と「現実の自分」との境界が曖昧になっていく、主人公の心理そのものを表している。

ハッキング描写は誇張表現を回避

本作のハッキングシーンは、ド派手なビジュアルでコードが飛び交うようなハリウッド的な表現を避け、フィッシングによるなりすまし、ゴミ漁り(ダンプスター・ダイビング)による情報収集、USBメモリを使ったマルウェアの仕込み、SQLインジェクションなど、実際に存在する手口を中心に描いている。

その結果、公開当時には「ドイツのハッカーコミュニティからも比較的好意的に受け止められた」と紹介された。

『ファイト・クラブ』との距離感

公開当時からしばしば『ファイト・クラブ』と比較されるが、オマージュというより「同じ問いを別の角度から見た作品」になっている。

社会から見えない存在だった青年が、匿名の仮面をかぶることで初めて「何者か」になれるという構造は確かに近い。
ただ、『ファイトクラブ』が扱っているのが1990年代の消費社会批判に対して、本作はSNSや承認欲求が支配する2010年代のインターネット文化がテーマ。

BND捜査官のトリーヌ・ディルホムがベンジャミンの家を捜索するシーンでは、『ファイト・クラブ』の映画ポスターが2枚飾られている。
監督のバラン・ボー・オダー自身が、本作とデヴィッド・フィンチャー作品との近しさを自覚していたことがうかがえる。

最後にベンジャミンがマジックを披露する場面では、背後にピエロのマスクをつけ黒い服を着た人物が映っている。
これも『ファイト・クラブ』へのオマージュ。

名作Netflixドラマ『ダーク』の原点

本作のヒットがNetflixの目に留まり、私生活のパートナーでもある、監督のバラン・ボー・オダーと脚本家のヤンチェ・フリーセは、オリジナルドラマの制作をオファーされる。

そこから生まれたのが、Netflixオリジナルシリーズ初のドイツ語作品となったSFドラマ『ダーク』
本作は、いわば名作ドラマ誕生の起点になった作品でもある。

リメイクはどうなった?

本作は、ドイツアカデミー賞で6部門ノミネート、3部門受賞という快挙も成し遂げた。
その後すぐにハリウッドでのリメイクが決定し、バラン・ボー・オダー監督は米バラエティ誌で「世界で注目すべき10人」にも選出された。

しかしリメイクに関しては、その後長らく具体的な続報が無いままとなっている。

1980年代以来の快挙と超長寿ドラマ

本国ドイツでは大ヒットを記録し、国内興行収入で1位を獲得。
これは1980年代以来、実に約30年ぶりにドイツ製スリラー映画が首位に立つ快挙となった。

前回首位のスリラー映画は、刑事ドラマ『Tatort』内で最も人気のあるホルスト・シマンスキー警部(ゲッツ・ゲオルゲ)の登場回が、テレビ放送に先立って劇場で公開されたもの。

『Tatort』は、1970年に旧西ドイツで制作されてから現在まで、1300話以上、実に50年以上も続く超長寿・人気ドラマ。
面白いのが、テレビ局11社(ドイツ9、オーストリア1、スイス1)が共同で制作しており、各局がその地域を舞台に、それぞれ独自の製作チームで撮影している点。
そのため、都市ごとに異なる建築や文化、訛り、社会問題などを見ることができる。

最大の特徴は、固定の主人公がなく、エピソードごとに異なる都市で活動する警察チームに焦点を当てる、アンソロジーのようなドラマだということ。
これまでに70以上の警察チームが登場し、現在も約20のチームがそれぞれ年に1~3回登場する。

年間30話ほどしか放送されず、各局は年に数話しか制作しない分、各エピソードは90分と長く、テレビ映画に近い。
そのため、より丁寧で作り込まれたストーリーやキャラクター描写が可能になっている。

放送年数からも分かるように、ドイツ国内での人気は凄まじく、家族はもちろん、夜にバーで集まって観る習慣もある。
日曜夜8時15分には「街から人が消える」と言われるほど。
放送時間帯は電話してはいけないという、暗黙のルールまでもが存在する人気ぶり。

また、各都市を舞台にすることでドイツ全土の視聴者が「自分の地元」の回を楽しみにできる点や、人間味あふれるキャラクター、社会問題への切り込みなどが、50年以上にわたる人気を支えている。

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