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【これぞ北欧ノワール】過去と現在の事件が交錯『特捜部Q カルテ番号64』

作品情報

『特捜部Q カルテ番号64』(原題:Journal 64)

公開 2018年
上映時間 119分
監督 クリストファー・ボー
脚本 ニコライ・アーセル
原作 ユッシ・エーズラ・オールスン『Journal 64』
出演

ニコライ・リー・カース、ファレス・ファレス、ジョアンヌ・ルイズ・シュミット他

評価 デンマークアカデミー賞に当たる、第36回ロバート賞で10部門にノミネートされ、助演男優賞(ファレス・ファレス)を受賞。
特捜部Q カルテ番号64(字幕版)

あらすじ

アパートの一室で、3体のミイラ死体が発見される。カールは大事件の匂いを嗅ぎつけ捜査に取り掛かる。

調査していくと、ある島に存在していた女子収容所が関係していることが分かる。やがて、壮絶な過去を持つ一人の老女と、新進政党の関係者が捜査線上に浮上する—

感想

今回の話は、言ってしまえばほぼ実話という恐ろしさがあります。

今作は、シリーズ最高傑作と言われているそうですが、それも納得の内容でした。
カールとアサドのバディ関係も、犯人に辿り着くまでのミステリーも完璧。

シリーズ通して言えることは、

  • 真相に近づく度にケガをする
  • 過去と現在を行き来しながら進むが、さほど難しくはならない。
  • 暗い内容だが、最後には少しの救いがあるという絶妙なバランス

観終わった後は、ブラムハウス製作のドキュメンタリー『我々の父親』を思い出しました。

雑記

国内では知らない人はいない名シリーズ

今作はシリーズ最終作となっており、以前に3作品制作されている。公開順は、

  1. 『特捜部Q 檻の中の女』(2013)
  2. 『特捜部Q キジ殺し』(2014)
  3. 『特捜部Q Pからのメッセージ』(2016)
  4. 『特捜部Q カルテ番号64』(2018)

正確には、『特捜部Q 知りすぎたマルコ』(2021)という最新作もありますが、製作陣からキャストまで全て変更されており、内容もそこまで面白くなかったので省かせてもらいました。

本家シリーズ4作品で、ロバート賞(デンマークアカデミー賞)に合計45回ノミネートという驚異の数字を記録。まさに、デンマークでは知らない人はいない傑作シリーズとなっている。

フィクションではない事実

本作のテーマは、「優生保護・劣勢淘汰」という思想。これはフィクションではなく、実際にあった考え方。現に日本でも、「断種」は行われていた。

デンマークで主張したのは、カール・クリスチャン・シュタインケという政治家。1920年の著書では、「劣った個人には、あらゆる配慮と愛情をもって接するが、その代わり、生殖することだけは禁ずる。」と発言。彼の著書は、デンマーク優生学や断種に関する法律の基礎となり、1929年に断種法が制定された。34年の改正では不妊手術の本人同意が不要となり、この法律は67年に廃止されるまで続いた。エンドクレジットにもあるように、34年から67年まで、11,000人以上の女性が強制的に不妊手術を受けた

一方で、彼の功績として、1933年の社会改革も無視することはできない。この改革により、北欧型の国家福祉サービスのモデルが実現した。彼のこの改革が、現在、福祉国家として知られるデンマークに繋がる、大きな一歩となったことは否定できない…。